地震保険の歩み

制度創設から現在まで

1. 地震保険制度の創設前

世界有数の地震国である日本では、地震による被害が火災保険の補償対象外となっており、明治以降大きな地震災害が発生するたびに、地震等による損害を補償する保険制度の必要性が検討されていました。しかし、地震リスクはその発生頻度と規模を統計的に把握することが難しいことや、一度発生すると異常・巨大な災害となる可能性があるという特異性のため、実現には至りませんでした。

2. 地震保険制度が創設されるまで

新潟地震の発生

地震保険の制度創設のきっかけとなったのは、1964年6月に発生した新潟地震(マグニチュード7.5)でした。被害は新潟県を中心に山形県、秋田県など9県におよび、死者26人、負傷者447人、住家被害は全壊1,960棟、半壊6,640棟、浸水15,297棟、一部破損67,825棟、住家以外の被害も16,283棟となりました。また、船舶・道路・橋・鉄軌道・堤防などにも大きな被害が生じました。

「地震保険に関する法律」の制定

この新潟地震を踏まえ、保険審議会の審議を経て「地震保険に関する法律」が制定されました。
地震保険制度は、この法律に基づく保険制度として創設されたものです。

保険業法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
(1964年6月19日 衆議院大蔵委員会)

わが国のような地震国において、地震に伴う火災損害について保険金支払ができないのは保険制度上の問題である。差し当たり、今回の地震災害に対しては損保各社よりなんらかの措置を講ぜしめるよう指導を行い、さらに既に実施している原子力保険の制度も勘案し、速やかに地震保険等の制度の確立を根本的に検討し、天災国というべきわが国の損害保険制度の一層の整備充実を図るべきである。

3. 地震保険制度の変遷

当初、地震保険制度は地震危険の特異性からかなり制約されたものでした。しかし、数度の大きな地震災害の経験から生まれた保険契約者のニーズなどを踏まえ、地震保険制度は何度も改定が行われ、改善が進められてきました。

制度概要 1966年(創設時) 現在(2023年4月現在)
火災保険の契約金額に対する
地震保険の契約金額の割合
30% 30%~50%
限度額 建物 90万円 5,000万円
家財 60万円 1,000万円
補償内容 全損のみ 全損・大半損・小半損・一部損
総支払限度額 政府
負担
限度額
3,000億円 2,700億円 12兆円 11兆7,713億円
損害保険会社
負担
限度額
300
億円
2,287億円

年表
~制度創設から50年間の主な制度改定~

主な制度改定
1966
(昭和41)
地震保険
制度発足
1972
(昭和47)
5 加入限度額 建物90万円→150万円、家財60万円→120万円
総支払限度額 3,000億円→4,000億円
1975
(昭和50)
4 任意付帯の導入
加入限度額 建物150万円→240万円、家財120万円→150万円
総支払限度額 4,000億円→8,000億円
1978
(昭和53)
4 総支払限度額 8,000億円→1兆2,000億円
1980
(昭和55)
7 火災保険の契約金額に対する割合 30%→30~50%
加入限度額 建物240万円→1,000万円、家財150万円→500万円
半損導入
付帯方法の変更(原則自動付帯)
保険料率の見直し
1982
(昭和57)
4 総支払限度額 1兆2,000億円→1兆5,000億円
1991
(平成3)
4 一部損導入
保険料率の見直し
1994
(平成6)
6 総支払限度額 1兆5,000億円→1兆8,000億円
1995
(平成7)
10 総支払限度額 1兆8,000億円→3兆1,000億円
1996
(平成8)
1 加入限度額 建物1,000万円→5,000万、家財500万→1,000万
保険料率の見直し
1997
(平成9)
4 総支払限度額 3兆1,000億円→3兆7,000億円
1999
(平成11)
4 総支払限度額 3兆7,000億円→4兆1,000億円
2001
(平成13)
10 割引制度の導入
保険料率の見直し
2002
(平成14)
4 総支払限度額 4兆1,000億円→4兆5,000億円
2005
(平成17)
4 総支払限度額 4兆5,000億円→5兆円
2007
(平成19)
10 割引制度の導入
保険料率の見直し
2008
(平成20)
4 総支払限度額 5兆円→5兆5,000億円
2012
(平成24)
4 総支払限度額 5兆5,000億円→6兆2,000億円
2014
(平成26)
4 総支払限度額 6兆2,000億円→7兆円
7 割引制度の拡充
保険料率の見直し
2016
(平成28)
地震
保険制度
創設
50周年
4 総支払限度額7兆円→11兆3,000億円
2017
(平成29)
1 半損を大半損・小半損に分割
割引制度の拡充
保険料率の見直し
2019
(平成31)
1 割引制度の拡充
保険料率の見直し
4 総支払限度額 11兆3,000億円→11兆7,000億円
2021
(令和3)
1 保険料率の見直し
4 総支払限度額 11兆7,000億円→12兆円
2022
(令和4)
10 保険料率の見直し

地震災害の経験を踏まえた主な制度改定

1978年宮城県沖地震

1980年7月改定

(1)改定の背景

1978年6月12日宮城県沖を震源とするマグニチュード7.4の1978年宮城県沖地震が発生し、宮城県を中心に大きな被害をもたらしました。
この地震で半壊および一部破損の被害が多数発生しましたが、地震保険の補償対象とならなかったため、保険契約者から補償内容改善の要望が多く寄せられました。また、この地震保険の補償内容については国会においても論議され、地震保険制度の充実と早期改善が強く要請されました。

(2)主な改定内容

①半損担保の導入
全損担保に加え、新たに半損担保が導入されました。半損の場合、建物は保険金額の50%、家財は10%が支払われることになっていましたが、家財が全損に至らない損害で収容建物が半損以上の損害については、半損と認定されることになりました。

②付帯方法の変更
契約者の利便性を考慮し、地震保険の付帯対象となるすべての火災保険種目と必ずセットで加入し、契約者に特別の事情のある場合には付帯しないことができる方法になりました。

③付保割合および加入限度額の引上げ
付保割合については、火災保険金額に対し一律30%であったものを、30~50%の範囲で設定できるように拡大され、加入限度額については、建物240万円から1,000万円に、家財は150万円から500万円に引き上げられました。

④保険料率の改定
半損担保が導入されたことを踏まえて、保険料率の見直しが行われました。

1987年千葉県東方沖地震
・1989年伊豆半島沖群発地震

1991年4月改定

(1)改定の背景

1987年12月17日に発生した千葉県東方沖地震(M6.7)は、千葉県を中心に被害をもたらし、住宅建物の全壊10棟、一部破損6万棟余の被害を出しました。また、1989年7月から8月にかけて発生した伊豆半島沖群発地震においても一部破損が多数発生しました。しかし、当時の地震保険では一部損が補償されなかったため、契約者から一部損も補償の対象にしてほしいという要望が多数寄せられました。

(2)主な改定内容

補償内容について、全損および半損担保に加え、新たに一部損担保が導入されました。
一部損の場合には、建物、家財ともそれぞれ保険金額の5%が支払われ、家財は、収容建物が一部損の場合に一部損と認定されることになりました。

1995年兵庫県南部地震
(阪神・淡路大震災)

1996年1月改定

(1)改定の背景

1995年1月17日、淡路島付近を震源とするマグニチュード7.3の平成7年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が発生し、神戸市・淡路島を中心に非常に大きな被害をもたらしました。
震災当時の地震保険制度には、家財の損害認定結果(半損・一部損)は建物の損害認定結果に準拠するという規定がありました。そのため、この地震によって家財に深刻な被害を受けたにもかかわらず、建物の損傷が無い、あるいは軽微であるために、十分な地震保険金が支払われないという事例が生じました。
また、建物1,000万円、家財500万円という当時の加入限度額や、家財の半損に対する支払いが保険金額の10%という設定に対して、被災者の生活再建補助としては不十分であったことから、加入限度額等を引き上げる要望が多く寄せられました。

(2)主な改定内容

①家財の損害認定基準の変更
家財の半損および一部損の認定方法について、従来の建物の損害の程度に準拠する方法から、家財そのものの損害程度に基づく認定方法に変更されました。また、家財の半損に対する支払割合が、保険金額の10%から50%に引き上げられました(建物の支払割合と同一)。

②加入限度額の引上げ
建物は1,000万円から5,000万円、家財は500万円から1,000万円に引き上げられました。

2001年10月改定

耐震性能の高い住宅に対する割引制度として、「建築年割引」「耐震等級割引」が導入されました。

・「建築年割引」(割引率:10%)
阪神・淡路大震災の被害事例から現行建築基準法(1981年6月1日改正)に基づいて建築された住宅の耐震性能の高さが実証されました。そのため、現行建築基準法に基づいて新築された住宅について建物の建築時期が確認できた場合に保険料を割り引く、「建築年割引」が導入されました。

・「耐震等級割引」(割引率:30%~10%)
建物の耐震性能は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、「品確法」)の住宅性能表示制度による住宅性能評価書、あるいは耐震診断による耐震性能評価書に「耐震等級(3段階)」として表示されています。これらに基づいて、保険料を割り引く、「耐震等級割引」が導入されました。

2007年10月改定

(1)改定の背景

阪神・淡路大震災が発生した1995年7月に制定された「地震防災対策特別措置法」に基づき、行政施策に直結すべき地震に関する調査研究を政府が一元的に推進することを目的として、「地震調査研究推進本部」(以下、「地震本部」)が設置されました。
地震本部では、当面推進すべき地震調査研究の課題のーつとして、「確率論的地震動予測地図」(以下、「予測地図」※)の作成を掲げ、2005年3月にその成果を公表しました。
また、阪神・淡路大震災後、2004年新潟県中越地震や2005年福岡県西方沖地震など比較的大きな地震が頻発したこともあり、国は建築物の耐震化・耐震改修を地震対策の大きな柱の一つとして位置づけ、2005年11月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を改正しました。

2005年9月には、中央防災会議が決定した「建築物の耐震化緊急対策方針」をはじめ、国土交通省の提言でも耐震診断・改修に係る地震保険の割引制度のあり方について言及され、免震建築物に対する割引制度を検討することも提言されました。
このような状況下で、品確法に規定される日本住宅性能表示基準に、2007年4月から免震建築物が追加されることとなり、統一的な基準で免震建築物であることを確認できるようになりました。更に、2006年9月に、国土交通省から、地方公共団体が行っている耐震診断結果の報告書の標準的な様式が示され、「建築年割引」や「耐震等級割引(耐震等級1)」の対象物件と同水準の耐震性を有することが客観的に確認できるようになりました。その結果、2007年10月の料率改定とあわせて、割引制度も拡充されました。
※「予測地図」とは、一般に地震が発生したときに対象としている地域が見舞われるであろう地震動(揺れ)の強さやその地震動が生じる確率を予測して、地図上に表示したもの。

(2)主な改定内容

①保険料率の改定
料率の算出に用いる震源モデルを、従来の理科年表ではなく、予測地図の作成に使われている情報に変更するとともに、地震による被害の予測手法も新しいものに改めました。その結果、保険料率は全面改定となり、全体で平均7.7%の引下げとなりました。

②「免震建築物割引」、「耐震診断割引」の追加
・「免震建築物割引」(割引率:30%)住宅性能評価書により免震建築物と評価された場合に保険料を割り引く、「免震建築物割引」が導入されました。
・「耐震診断割引」(割引率:10%)耐震診断または耐震改修により、建築基準法に定める現行耐震基準(平成18年国土交通省185号)に適合していることが確認された場合に保険料を割り引く、「耐震診断割引」が導入されました。

2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)

2011年5月~2014年4月改定

(1)改定の背景

2011年3月11日、三陸沖を震源として発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、わが国の観測史上最大のマグニチュード9.0を記録しました。この地震による最大30mを超える津波によって、東北地方の太平洋沿岸では壊滅的な被害が発生し、また、関東地方でも大規模な液状化現象が生じるなど、東日本の広い地域に被害をもたらしました。
東日本大震災によって、多額の保険金支払いが発生したことにより、民間保険会社の準備金が減少した一方で、全国的に地震災害に対する関心も高まり地震保険契約が一段と増加しました。

また、2011年3月の東北地方太平洋沖地震の対応を踏まえ、地震保険制度の見直すべき点(強靭性・商品性)について検討を行うため、財務省において「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」が設置され、2012年11月、検討結果が報告書として取りまとめられました。

(2)改定の内容

報告書において官民負担割合の見直しが喫緊の課題であると指摘されたこと等を踏まえ、政府と民間保険会社の負担割合や総支払限度額などが変更されました。

2014年7月改定

(1)改定の背景

2012年11月の財務省の「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」(以下、「財務省PT」)の報告書では、保険料率のあり方として、等地区分における料率格差の平準化を図る一方、耐震割引については耐震化促進にするようメリハリを利かせたものにすべき等の言及がされました。
また、地震本部では、2012年12月の報告書において「従来の方法による全国地震動予測地図2012年版」を付録として公表しました。

(2)改定の内容

①保険料率の改定
新たに予測地図が公表されたことを受け、料率算出に用いる震源モデルおよび地震による被害の予測手法が更新されました。その結果、保険料率は全面的に改定となり、全国平均で15.5%の引上げとなりました。

②「免震建築物割引」、「耐震等級割引(耐震等級2・3)」の割引率拡大
被害実態等から、建物の地震の揺れに対する被害関係を再評価した結果、「免震建築物割引」および「耐震等級割引(耐震等級3)」の割引率が30%から50%に、「耐震等級割引(耐震等級2)が20%から30%に拡大されました。

2017年1月改定~2021年1月改定

(1)改定の背景

2014年12月に、地震本部から東北地方太平洋沖地震を踏まえた一連の検討結果を反映した予測地図2014年版が公表され、震源モデルが大幅に見直されました。
また、財務省PTの報告書にて整理された課題に係る措置状況等についてフォローアップするため、2013年11月から「『地震保険制度に関するプロジェクトチーム』フォローアップ会合」(以下、フォローアップ会合)が財務省で開催され、2015年6月に検討結果をとりまとめた報告書が公表されました。
報告書では、保険金支払割合の格差を縮小しつつ、深刻な被害を被った保険契約者に対する補償を充実させるため、「半損」を分割して損害区分を3区分から4区分に細分化すべきと言及されました。また、保険料率の大幅な引上げにより、保険契約者の負担感が高まることが懸念されるため、地震保険の加入率確保の観点から、保険契約者の理解を得られるよう、複数段階に分けて保険料率を引き上げることも考えられる等の意見・指摘がなされました。
これを受け、補償内容の改善と保険料率の見直しが進められました。

(2)改定の内容

①損害区分の細分化
従来の半損部分が大半損、小半損に区分され、全損、大半損、小半損、一部損の4区分となりました。支払割合については、大半損は保険金額の60%、小半損は保険金額の30%となりました。

②保険料率の改定
保険料率の算出に用いる震源モデルが予測地図2014年版に更新されたこと等により、全国で19.0%の保険料率の引上げが必要な状況となりました。そこで、フォローアップ会合の報告書における意見・指摘を踏まえ、3段階に分けて保険料率を引き上げることになり、1回目の改定である2017年1月改定では、全国平均で5.1%の引上げとなりました。続いて、2回目の改定である2019年1月改定では、全国平均で3.8%の引上げとなり、3回目の改定である2021年1月改定では、全国平均で5.1%の引上げとなりました。

(注)損害保険料率算出機構「日本の地震保険(平成26年7月版)」、日本地震再保険株式会社「日本地震再保険50年史」をもとに作成

過去の保険金支払額と
普及の状況推移

(1)過去の地震保険による地震保険金支払額(支払額上位20位)

発生年月日 地震名 マグニチュード(M) 支払再保険金(百万円)※1
2011 3月11日 平成23年東北地方太平洋沖地震※2 9.0 1,289,404
2016 4月14日 平成28年熊本地震 7.3 390,894
2022 3月16日 福島県沖を震源とする地震 7.4 265,427
2021 2月13日 福島県沖を震源とする地震 7.3 250,905
2018 6月18日 大阪府北部を震源とする地震 6.1 124,831
1995 1月17日 平成7年兵庫県南部地震 7.3 78,346
2018 9月6日 平成30年北海道胆振東部地震 6.7 53,613
2011 4月7日 宮城県沖を震源とする地震 7.2 32,414
2021 3月20日 宮城県沖を震源とする地震 6.9 18,938
2005 3月20日 福岡県西方沖を震源とする地震 7.0 16,973
2001 3月24日 平成13年芸予地震 6.7 16,942
2004 10月23日 平成16年新潟県中越地震 6.8 14,898
2022 1月22日 日向灘を震源とする地震 6.6 11,863
2021 10月7日 千葉県北西部を震源とする地震 5.9 11,007
2007 7月16日 平成19年新潟県中越沖地震 6.8 8,251
2021 5月1日 宮城県沖を震源とする地震 6.8 8,110
2005 4月20日 福岡県西方沖を震源とする地震 5.8 6,430
2003 9月26日 平成15年十勝沖地震 8.0 5,990
2016 10月21日 鳥取県中部を震源とする地震 6.6 5,620
2008 6月14日 平成20年岩手・宮城内陸地震 7.2 5,545
(注)支払保険金は、千万単位で四捨五入を行い算出。

※1日本地震再保険株式会社資料(2023年3月31日現在)より

※2東日本大震災に係る支払保険金は、3.11東北地方太平洋沖地震、3.15静岡県東部を震源とする地震、4.7宮城県沖を震源とする地震および4.11福島県浜通りを震源とする地震などを合計した約1兆3,241億円。

(2)地震保険の付帯率と保有契約件数

※付帯率:年度中に契約された火災保険契約に、地震保険契約がセットして契約されている割合のこと。
原則、地震保険は火災保険にセットして加入する必要があります。

※2000年度以前の付帯率のデータはありません。

※損害保険料率算出機構のデータをもとに作成しています。